コラム7

 今回、ご紹介するのは岐阜市内で自立(自律)学習指導塾を経営する山田先生
です。

 山田先生が経営する学志舎は、織田信長ゆかりの岐阜城の城下町にあります。
街並保全地域にあり、校舎そのものも格子造りの風情あるたたずまいをしていま
す。イメージカラーも上品な紫です。

 学志舎は「自立学習」ではなく「自律学習」を標榜する塾です。3年前よりO
K学習法を取り入れ、塾の体質改善の真っ只中にあります。

 山田先生が学志舎の改革に着手したのは5年ほど前です。学匠の国広先生の講
演に感銘を受け、それまでの中学生中心の補習塾から大学受験を目指す進学塾へ
と転換を図ります。この改革は、ある意味成功しました。それ以来、東大生2名、
東工大生1名を筆頭に、優秀な卒塾生を輩出しています。今年の春も、東大、岐
阜大医学部、愛知教育大へ生徒を送り込んでいます。ところが…

 地方の個人塾としては充分な実績を挙げているにも関わらず、改革以降、生徒
数は右肩下がりを続けています。いったい、その原因はどこにあるのでしょうか?

 私が最初に気付いたのは、塾のアピールポイントがずれていることでした。

 山田先生は教育コーチングにも熱心に取り組み、ご自身はトレーナー資格を持
ち、スタッフ(大学生)も全員が受講、教室は認定校を取得しています。様々な
「心の教育」にも熱心で、座禅・稲作り・マラソン大会・各種講演会と、イベン
トは盛りだくさんです。それはいいのですが…

 過去のチラシを見せていただいたのですが、教育コーチング・心の教育を全面
に出した内容になっています。有体に言えば説教臭い?内容なのです。

 大学受験をメインにする改革を進めていながら、それをアピールせずに周辺部
分を強調するというチグハグさが気になりました。教育コーチングや心の教育は
重要です。しかし、それがメインディッシュになってはダメです。

 例えて言えば、メインデッシュはステーキで、ソースの隠し味としてマンゴー
を使っている料理店があったとしましょう。客はステーキを食べて「美味しい!」
と感激し、その味の秘訣を知って感動します。だから口コミをする…。「ねえね
え、知ってる?あの店のステーキは、ソースにマンゴーを使っているんだって。
だからあんなに美味しいのよ」

 教育コーチングも、心の教育も、塾にとっては隠し味でなければなりません。

 「そうか!あの塾に通い始めた生徒が皆、意欲的になるのは教育コーチングを
導入しているからだ…」

 こうした評判作りが正しい姿です。

 これまでの学志舎は、隠し味のマンゴーを一所懸命にアピールしていたことに
なります。これでは「客」は集まりません。やはり、アピールすべきはステーキ
です。

 自律学習を成立させるために、OK学習法は有効です。ただし、即効性には欠
けます。OK学習法とは青森県八戸市の畑山先生が提唱している学習法で、ワー
ク1ページを完璧にマスター(OK)してから次へ進むという、学習の王道をシ
ステム化したものです。この学習法を山田先生は採用しました。

 その時、私が指示したのは…どんな方法を使ってもいいので、最初に成果(成
績向上)を出せ!」というものです。

 これは、こうした新たな取り組みをする時の鉄則です。

 生徒も保護者も、OK学習法なるものの正体を知りません。最初は間違いなく
懐疑的です。ただ、信頼する山田先生が「良い」と言うから、それを受け入れよ
うと思っているだけです。つまり、「騙されたと思って食ってみな」という割烹
料理屋の大将の言葉に騙されてみようと思っているのです。ならば、食べた人に
「ああ、騙されて良かった」と思わせなければなりません。

 ところが残念なことに、以後2回の定期試験で、驚くほどの成果を出せていま
せん。いわゆるメインディッシュが力を発揮していないのです。原因は…

 愚直にOK学習法の定義を守っていることです。

 前回もお話しましたが、自律(自立)学習の最大の弱点は、成果がすぐには表
れないことです。OK学習法も同じです。すぐに成果が出る魔法の杖ではありま
せん。

 試験後のミーティングで、なぜ成果が出ないのかという理由として、山田先生
は次のように話しました。「試験範囲を徹底してOKを取らせることができなかっ
た」

 OK学習法の基本は次の通りです。

1 ワーク1ページを解く。分からない問題は長時間考えない。

2 講師のチェックを受け、アドバイスをもらう。

3 間違えた問題を徹底して学習する

4 次回(翌週)再チャレンジをして、全問正解のOKをもらう。(このOKが
取れるだけの学習をしてくることが宿題)

 これをOKが取れるまで繰り返します。すると、次の問題が発生します。

 基本は予習ですから、最初からOKを取れることはありません。当然、間違い
だらけになります。問題は、再チャレンジが同日ではなく、翌週になっているこ
とです。理屈は分かります。1週間後に全問正解できて初めて本当の学力です。
ただ…

 例えば1科目2ページのペースで進んだとして、5科目で10ページです。翌週、
全問正解できないと積み残しになりますので、例えば半分を積み残した生徒は次
の週、15ページにトライしなければならない計算です。これでは「あっ」と言う
間に20ページ、30ページの積み残しが発生します。試験前には積み残し(OKが
取れていないページ)が50ページ、60ページになっている生徒も多発します。こ
れではもう、リトライする意欲がなくなります。

 そこで、「翌週(2回目)にOKが取れなかった部分に関しては、翌週ではな
く同じ週の週末に演習日を設け、そこで徹底的に克服する」というカリキュラム
に変更しました。積み残しは翌週までにしたのです。

 この方法はOK学習法の基本から外れていることは重々承知しています。しか
し、今のままでは弊害が大きすぎると判断しました。

 それでも、徐々に生徒数・売上共に回復基調に向かっています。(2年前の約
1.7倍) 特に特別講習(夏期講習・冬期講習等)は好調です。それまでの「一
律定額講座」を辞め、一人ひとりに合わせたカリキュラムを塾側が作成し、提案
するという方法に変えたところ、前年比3倍の売上になりました。(87万円⇒
250万円)外部受講生も13名を数えています。

 この方法は実践会/会員さんには馴染みですが、初めての方に説明します。ほ
とんどの個別指導・自立学習指導の塾の講習は、例えば「10コマ2万円」「20コ
マ4万円」のように設定され、「どうぞ、必要に応じてコマ数、科目を選択して
ください」という売り方が一般的です。一見、選択の幅が大きく、良心的なセー
ルス法のようですが、相手(生徒・保護者)は素人です。どの科目が何コマ必要
かなど判断ができません。

 プロ(専門家)である「あなた」が、必要なカリキュラムを作成してあげるの
です。結果、講習費が30万円になっても構いません。選択の自由は相手にありま
す。その上で、提案書を前にしてカウンセリングを行います。「この暗記部分は
家でもできるよね。教材だけ提供するので家庭学習しましょう。チェックテスト
のため週に1コマだけ選択してください。この方程式文章題は講師の指導下で学
習した方が効果的ですから、この5コマは是非、受講してください…」こんな感
じです。

 ちゃんと理を持って説明すれば、納得してくれます。単純に「10コマ2万円」
という売り方をするよりも、はるかに売上は上がります。「こんな高い講習、買っ
てもらえないよな」と、本来必要な学習量を無視するのは、相手に対して失礼で
すし、何よりプロとして失格です。

 実際、この方法で講習を実施した塾は、例外なく売上が上がっています。

                                (続く)