2014/11/3 成功塾最強コラムレポート[1]

私が塾専門のマーケティング勉強会である塾生獲得実践会を立ち上げて13年が経ちました。「十年一昔」と言いますが、実際、当時と現在を見比べると、隔世の感があります。ドッグイヤー、マウスイヤーという言葉が示す通り、正に時代の移り変わりは早い。

 金融機関から端緒を付けた合従連衡は塾業界にも及び、大手塾の寡占化が進みました。長引く不況と少子化によって、業界の縮小均衡の流れが加速しました。多くの中小・個人塾が廃業を余儀なくされ、淘汰の波は大きくなるばかりです。

 そうした中、今も塾経営を続けられ、このコラムをお読みの「あなた」は、この激動の10年を生き延びてこられた優秀な塾経営者です。今後も生き延び、勝ち残るに相応しい塾を経営されています。この研究会、そしてコラムは、そうした「あなたの塾」が今後、ますます発展するために必要な情報・ノウハウを提供することが目的です。そのためには、情報提供のご協力をお願いすることもあるでしょう。情報を提供する者には、その10倍の情報がもたらされるものです。相互発展の精神でお付き合いください。

 さて、私がこの「個別指導・自立学習指導研究会」の発足を決意したのは、ここ10年間の中小・個人塾の変遷が理由です。かつては、小なりとは言え集団指導を展開している塾が主流でした。ところが現在では、多くの塾が個別指導、自立学習指導の形態を選択しています。背景には映像教材、IT教材の著しい進化があります。優れたデジタル教材の登場によって、小さな塾、地方の塾でも個別対応が可能になりました。

 また、少子化による生徒数の減少、売上の減少という切実な問題もあります。学年別クラス編成が必要な集団授業の場合、例えば1クラス3名しか在籍していない「赤字学年」ができたりします。もちろん、各クラス満席ならば、集団指導が最も利益率が高いのは当然ですが、どうしても不可避な赤字学年が足を引っ張り、経営全体を圧迫します。いきおい、無学年生が可能な個別指導、自立学習指導を選択することになります。私もそうでした。

 私が、1クラス定員12名の集団指導で始めた塾を、数年後に個別指導専門塾に転換したのは、無学年制によって人件費のロスを減少させたかったからです。塾にとって最大の固定費は、地代家賃と人件費です。これを最大効率化することは、経営者として当然の選択です。

 地方でも都市部に存在し、講師の確保が容易な塾は個別指導を選択できますが、そうではない立地の場合、優秀な学生講師の確保は難しい。そこで、前述の映像教材を利用した個別対応自立学習指導という新しいカテゴリーの塾が登場します。もちろん、中には一切のIT教材を利用せずに自立学習を展開している塾もありますが、かなり少数です。ほとんどの場合、何がしかのITデジタル教材を利用しているものです。

 この自立学習指導は、中小・個人塾にとっては大きな福音でした。無学年制が可能で、かつ人件費の抑制という2つの利点を備えているからです。個別指導・自立学習指導への転換は、中小塾が新たなS字カーブを描く強力なアイテムと考えられました。ところが…

 現状を見ると、中小塾の個別指導塾、自立学習指導塾の苦戦が目立ちます。

 まず個別指導。これだけ個別指導が隆盛を誇るようになると、「個別」というだけで差別化を図ることが困難になっています。かつて私が個別指導塾に転換した頃(20年以上前)は、まだ個別の塾が少なく、「個別」というだけで他塾との差別化が容易でした。今では、そのアドバンテージが失われてしまっています。乱立する個別指導塾の中で、いかに差別化を図るか…それが大きな課題となっています。

 自立学習指導塾にとっては、その優位性が地域に浸透できずにいる現状があります。ややもすると「自習に高い授業料を払わされる」といった認識を持たれてしまいます。以前、CAI教材が塾業界に導入された時、「コンピュータに生徒を指導できるはずがない」「ただ、パソコンを見せるだけで高い授業料を取っている」といったネガティブな批判がありましたが、今の自立学習指導に対する市場の見方も、同様の「匂い」がします。

 そして最大の問題は、「成績を上げる」という塾にとって最大の使命に、塾が本気で取り組めない構造を内包していることです。

 個別指導の場合、現場は学生アルバイト講師がほとんどです。多くの塾が、彼らに丸投げしています。いえ、丸投げしても生徒の成績が向上するシステムを持っているのならいいのですが、ただ「分からないところを丁寧に教えてくれる…」だけの塾が多いのです。

 これでは、成績不振を理由とする退塾を防ぐことはできません。

 もともと、個別指導は「成績が上がらないシステム」です。週に1回80分~90分、(例えば)英語を指導するだけで成績が上がるほど、単純な話ではありません。また、指導科目(多くは数学と英語)は成績向上したとしても、他教科は手付かずです。個別指導塾で全教科を選択するのは授業料の負担が大きく、現実的には無理があります。

 高校入試は、言うまでもなく国語も社会も理科も必要です。長引く不況で可処分所得が低下している現在、「高い個別指導よりも、低額で五科目指導してくれる集団塾へ」という流れができるのは必然です。

 自立学習指導塾の場合、成績に関する問題はより深刻です。例えば成績が下がった場合を考えます。集団指導塾ならば、「同じ指導を受けている他の生徒の成績が上がっているのに我がしの成績が不振なのは、我が子に問題がある」と保護者は考えます。個別指導塾ならば、「あれほど面倒見良く教えてもらっているのだから、それでも成績が不振なのは仕方がない」と保護者は考えます。ところが自立学習指導塾の場合…

 「やっぱり、うちの子に自立学習は無理だ」と保護者は考えるのです。当然、退塾につながります。

 途中退塾した生徒・保護者は、たとえ原因が自分にあったとしても、その塾の良い評判を拡げることは100%ありません。それどころか、「あんな塾に通っている奴の気が知れない」とすら言い出すかもしれないのです。退塾の多い塾は、絶対に良い評判を拡げることは出来ません。

 つまり、個別指導塾、自立学習指導塾が苦戦している原因は次の2つです。

1 塾の特長を地域に発信できないでいる⇒他塾との差別化ができない。(マーケティング)

2 退塾率が高く、そのことによって良い評判が拡げられずにいる。(マネジメント)

 この2つの原因を解消しないことには、塾の発展は望めません。この研究会では個別指導塾・自立学習指導塾に特化したマーケティングとマネジメントについて研究を深めていきます。共に「個別対応」という意味では共通部分が多いはずです。また、他塾の実践を知ることは、新しい発想(閃き)を得る良い方法です。

 生徒にとって集団指導がいいのか、個別がいいのか…そんな貴賎はありません。ジャンルに貴賎は存在しません。しかし、ジャンルの中に貴賎は確実に存在するのです。