2015/2/3 成功塾最強コラムレポート[5]

 私が中小塾の経営者に必ずする質問があります。「あなたの塾の特長は何ですか?」

 すると、大抵の経営者が「う~ん」と考え込み、その後、8割の方が「やっぱり、面倒見がいいことですかね…」と答えます。

 ここで考えてほしいのは、「8割の塾が主張していることが本当に特長と呼べるかどうか」ということです。また、最も重要なことは、その特長が地域に認知されているかどうかという問題です。

 ある塾長は言います。「当塾は1クラス12名までの少人数集団クラスですから、教室に30人も40人も詰め込む大手塾よりは面倒見良く指導することができます」

 一見正しい主張のようですが、保護者から見ると別の解釈が成立します。「同じ集団指導ならば、30人も12人も変わらない。教師の指導力(技術)が最も重要だ」

 少なくとも、ただ定員が少ないだけで「面倒見が良い」という認識を保護者が持つことはありません。

 ある塾長は言います。「当塾は講師:生徒が1:2の個別指導だから、集団指導塾よりも面倒見良く指導することができます」

 これも、残念ですが保護者視点から見ると成立しません。保護者はこう考えています。「もともと、高い授業料を払って個別指導軸に通わせているのだから、そんなことは当然だ」

 我々塾経営者が思っている以上に評判を作ることは難しいのです。

 「感動の法則」について簡単に説明します。人は、常に一定の期待値を持って物事を見ています。例えば、缶コーヒーを買う時は120円分の期待値を持っていると考えることができます。そして実際に飲んでみて、その期待値に届いた時、人は「満足」と表現します。そこに届かないのは全て「不満」です。ところが人は、満足では行動(口コミ・リピート)に移しません。なぜなら、「120円の対価を払っているのだから、120円分の満足を得るのは当たり前だ」と考えているからです。この満足を超えた部分を「感動」と呼びます。人は感動の領域を味わうと、今度は行動に移したくて仕方がなくなります。自分が得た感動を誰かと共有したくなるのです。「あの映画見た?すごく面白いよ」「あそこのパスタ、とても美味しいよ」と、自ら口火を切って友人に話し始める…あの現象(口コミ)を生じさせます。こうして考えると、いわゆるウォンツで成り立つビジネスの方が口コミ・評判を広げやすいことが分かります。ところが塾は、歯医者と同じくニーズで成り立っているビジネスです。「あそこの歯医者、すごく上手だよ」と、自ら口火を切って話し始める人は稀です。

 塾で言うと、いくら塾側が「面倒見良く教えています」「とことん指導します」と主張しても、「そんなこと当たり前じゃない。だって、高い授業料を払っているのだから…」と思われるだけです。口コミ・評判を拡げるためには、圧倒的な感動…大きなインパクトを提供することが重要です。ちょっとやそっとの「面倒見の良さ」では通用しないのです。

 では、地域で「面倒見が良い」という評判を作っている塾は、どんな「圧倒的な感動」を提供しているのでしょうか。一例を紹介します。

 最近、いくつかの塾が実践を始めた企画に「早朝特訓」があります。定期テスト当日に早朝から指導し、最後のチェックをしてテストに向かわせるのです。朝食も塾が用意します。夜の仕事である塾にとって、早朝からの授業は「辛い」の一言です。でも、だからこそ大きなインパクトを与えることができます。近隣他塾が実施していないのでしたら、真っ先に実行することをおススメします。そして、どうせやるなら徹底することです。何事もそうですが、楽をして得られる果実はありません。

あるセミナーで「早朝特訓」の話をしたところ、ある塾経営者から報告がありました。「当塾も早朝特訓を実施しました。7時15分から1時間、最後のチェックをしてからテストに向かわせました」

「???7時15分??どうしてそんな時間からなのですか?」

「いえ、そんなに早くから始めても、生徒が誰も来ないと思って…」

「違う。誰も来なくても6時から始めるのです。そして誰もいない教室の外に立って、生徒を迎えるのです。最初の一人に対して、『よく来てくれたね。ありがとう。さあ、頑張って勉強しよう』と、一緒に教室に入ってください。きっと、その生徒は感動して親に話しますよ。『寒い中、先生が外で待っていてくれた』って…」

前述したように、塾人にとって早朝は一般の人の真夜中のようなものです。同じ辛いことをするなら、覚悟を決めて徹底してほしい。7時15分からではなく、せめて6時からの実施が必要です…このやりとりを紹介したセミナーの参加者の一人は、なんと早朝5時からのテスト対策授業を始めました。1年後の今、「面倒見の良い塾」の評判を地域に定着させることに成功しています。

「早朝特訓」は1つの例ですが、人は具体的な事例を見て抽象的なイメージを持つ性質を持っています。「早朝5時からのテスト対策授業」という具体的な『形』を見てやっと、「あの塾は面倒見が良い」という抽象的なイメージを持ちます。評判を作るということは、どれだけ具体的な「形」として提供できるかにかかっているのです。